溢れてやまない道尾愛
私は本を読むことが大好きなのですが、中でも道尾秀介作品を敬愛しています。
まずは第一弾として、私が初めて出会った道尾作品『球体の蛇』について語らせていただきます。
球体の蛇
あらすじ(結末に言及していない軽度なネタバレあり)
16年前、高校生だった主人公は、家庭の事情により乙太郎さんの家で世話になり、乙太郎さんの娘のナオと3人で暮らしていた。
ナオには幼くしてこの世を去ったサヨという姉がおり、主人公はサヨの死に関して秘密を抱えていた。そしてある時、サヨに似た女性を見かけ、惹かれ、彼女の過ごす家の床下に夜な夜な潜り込むという悪癖を繰り返すようになる。しかしある夜、運命を変える事件が起こり……。
主人公の誤解。ナオの誤解。サヨに似たあの人の誤解。幼いウソと過ちの連鎖が悲劇を生み、それぞれの心を追い込んでいく――。
印象的な描写
寒さが体の芯へと染み込んでいくごとに、風が刃物のように肌を責めるごとに、私は残酷な喜びのようなものを感じていた。こうして私を待たせている智子の罪が、もっと重くなって欲しいと思った。
引用元:『球体の蛇』道尾秀介(角川文庫)
想いを募らせている相手に、寒い中待たされる。自分は辛い思いをしながら待っている。あの人のせいで辛い思いをさせられている。私に辛い思いをさせるあの人……。
一種の加害者と被害者という関係性によって、自分たちがつながっているのだという感覚。こういった思いが間違った方向へ行き過ぎてしまうと、あてつけとしての自傷行為などに発展するのでしょうか。この危うい感性が、読んでいてゾクッときました。
まとめ
コミカルな導入から、目をそらさせない強い展開。最初から最後まで惹き込まれ、抜け出せなくなって、溺れるような気持ちで読みました。この悲しい登場人物たちが、どうか救われる結末であってと願いながら頁を捲りました。
こんな話が書ける人がいるのだと、久しぶりに打ちのめされた作品でした。
この一冊で、この人が書いた本、全部読もうと思いました。
重厚感のある作品を読みたい方におすすめです!
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