出会いは漫画
このお話は高校生のころに、くりた陸さんという方が描かれた漫画で初めて読みました。その後、その漫画の原作としてこの小説を読みました。
幸福な食卓
あらすじ(結末に言及しない軽度なネタバレあり)
過去に自殺を図ったが、命をとりとめた父さん。そんな父さんといるのが辛くなって、家を出た母さん。優秀で何事にも動じず、飄々と生きている兄の直ちゃん。佐和子は父さんの自殺未遂以来、梅雨の時期には体調が悪くなる――。
我が家では、朝食は家族揃ってとる。だから、重大な話や気の重くなる話も、1日の始まりに聞かされることになる。父さんが「父さんを辞めようと思う」と宣言したのも、朝の食卓でだった。
少し変わっているけれど、それでも幸福だと思える家庭で暮らす佐和子は、家族や学校や大浦くんのことで悩みながら毎日を過ごしていたが、あるとき、大きな悲しみが訪れる。
印象的なシーン
「かわいそうに」
しばらくして直ちゃんが言った。
「そんなこと言うほど、佐和子は傷ついているんだね」
とても辛いことがあって、大切な家族にひどいことを言ってしまった佐和子。それに対して、大切な相手にそんなひどいことを言ってしまうほど傷ついているんだ、と捉えてくれる兄。その心の深さがすごいと感じました。
私が病気になって辛かったとき、私も周囲に攻撃的な言葉や面倒をかけてしまったと思います。そしてみんな居なくなりました。あのとき、そばに直ちゃんみたいな捉え方をしてくれる人がいたら、何か変わっていたかもしれないのになぁと、佐和子が羨ましいです。
まとめ
人間の内面の繊細な描写と、対称的に簡潔なセリフが独特な空気感をかもしているお話です。登場人物たちがとても魅力的で、特に、兄のもつ優しさや闇がとても愛おしく感じました。
父さんの起こした一件で苦しんでいるのは佐和子だけのように見えて、実は家族みんな、それぞれのかたちで苦しんできたのだということが分かって、この人たちは確かにひとつの家族なんだなと思いました。
佐和子に訪れる悲しみは簡単に乗り越えられるものではないけれど、一緒に食卓を囲む毎日を重ねていく中で、薄らいでいくのかもしれないなと想像しました。
芯はしっかりあるのに、柔らかくて優しいお話です。
悲しいけれど、優しいです。
良かったら読んでみてください。
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