アンソロジー『Happy Box』
今回は『Happy Box』と言うタイトルのアンソロジーに収録されている、伊坂幸太郎さんの『Weather』というお話をおすすめしたいと思います。
アンソロジーとは、いろんな作家さんの短編集をあるテーマによってひとつの本にまとめたものです。
1冊で複数人の作家さんの短編が読めるので、これまで読んだことの無かった作家さんとの出会いもあり、私はけっこう好きです。
今回の『Happy Box』という本は、名前に「幸」の文字が入る作家さん5人の「幸せ」がテーマの物語をまとめたものです。
『Happy Box』 伊坂幸太郎 他
『Weather』あらすじ(結末に言及しない軽度なネタバレあり)
僕は天気の話に詳しい。
腐れ縁でプレイボーイの同僚・清水が連れてくる女の子と話をするときに、何気なく振った会話が別の女性とのエピソードだったりして、何を喋っても火種になってしまう。だから僕は当たり障りのない天気の話をするようになり、その知識が素人レベルを超えてしまった。
そんな奔放だった清水が結婚することになり、その相手だと紹介された女性は僕の高校時代の元恋人・明香里だった。
その場はやり過ごすが、翌日に明香里から連絡がきて、清水のことをいろいろ教えて欲しい、スパイになってくれと言う。彼女は清水のこれまでの派手な女性関係には気が付いており、今も他に女性がいるのではないかと心配なのだと明かす。
そんな元恋人の心配は現実のものにはならず、無事に迎えた結婚式。僕も客として招かれるが、式の間中、新郎の動きはずっと落ち着かない――。
好きなシーン
「おい、大友、お前がそんなに泣いてどうするんだ」と笑う清水も泣いていた。
~略~
「泣いてるじゃないか」と言う清水は、女性と奔放に付き合っていた頃の、調子が良いだけの彼とは違って見えた。
その場のほかの者たちが、泣いている僕たちを、不思議そうに眺めているのが分かるため、早く涙を止めなくてはと思うのだが、なかなかうまくいかない。
「いいか、これは」僕は答える。「小雨みたいなものだ」
恥ずかしさを隠すために、「気象庁が」と続ける。
気象庁が、「激しい雨」と言う場合、一時間に三十ミリ以上五十ミリ未満の雨のことを指し、「非常に激しい雨」は一時間に――。
清水と明香里の披露宴が終わり、談笑するシーンです。
泣いているその涙を、「小雨だ」という主人公の真面目さ、おかしさ、優しさが伝わってきます。
みんな揃って涙を流すような展開になった理由は、ぜひ物語を読んで、その温かさと共に知ってください。
その他の収録作品
〇『天使』山本幸久
〇『ふりだしにすすむ』中山智幸
〇『ハッピーエンドの掟』真梨幸子
〇『幸せな死神』小路幸也
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