道尾秀介さん推薦の作家さん
小説家であり僧侶でもある玄侑宗久(げんゆうそうきゅう)さんの書かれた小説です。私の大好きな作家の道尾秀介さんが、自身のエッセイの中で玄侑さんのことをこう語っています。
小説家なんていうものは、いくら著者が好きでも、本人には会わないほうがいい。「なんだ、こんな人が書いていたのか」と、たいていガッカリするからだ。
しかし、たまに例外がいる。僕にとって玄侑宗久さんがその一人だった。
引用元:『プロムナード』道尾秀介(文春文庫)
私は玄侑さんのことを、上記の道尾さんのエッセイを読み知りました。
好きな作家さんが薦める本なら読んでみたい、そう思いこの本を手に取りました。
テルちゃん
あらすじ(結末に言及しない軽度なネタバレあり)
フィリピンから「お見合い」を経て日本の北の町に嫁いできたエテル、愛称テルちゃん。玲子の夫の健志(たけし)の兄・安雄と結婚した、20歳以上も年下のテルちゃんは、眉間が少し広く愛らしい顔をしていた。
板金屋だった安雄とその父母が住んでいた家に、安雄の最初の妻が来たが去り、2番目の妻が来たが亡くなり、父も他界し、テルちゃんが嫁いできた。そしてわずか2年半の結婚生活の後に安雄は亡くなった。
しかしテルちゃんは子どもを連れて故郷へ帰ることはせず、夫と暮らした家に留まり、老いた義母の世話をし続けた。玲子も健志も、テルちゃんには心から感謝していた。だが安雄が亡くなって月日が経ち、義母の体調は芳しくなく、事態は少しずつ変化していく。
心に響いた言葉
家庭だって、自分の妻や夫を、よその妻や夫よりえこひいきすることで保たれる。健康だって、病原菌などの命まで平等に愛していたら保てないでしょうと言われれば、なるほどその通りだ。もっと言えば、愛校心や愛郷心、愛国心だって、ほかを知らずに自分の関わったものだけをえこひいきするだけのこと――。
これは、小説に登場する和尚さんの言葉です。
玲子は教師として学校に勤めているので、「えこひいき」はしてはいけないことと認識していたけれど、和尚さんのお話を聞きなるほどとなります。
誰かや何かを、他よりも特別に大切にすること。それは言ってみれば「えこひいき」であるわけで、それによって社会が保たれているとは、新しい視点でした。
してはいけない「えこひいき」と、必要であり、愛情表現でもある「えこひいき」。
自分がどちらをしているのか、考えてみるきっかけとなりました。
まとめ
哀しさと穏やかさが共存する、優しい物語でした。僧侶である作者も、小説に登場する和尚さんのような人柄なのかなと思いました。
お話の中でいくつかの昔話が登場しますが、その昔話に対する解釈にも、温かい教えがつまっています。
貧しい国の女性とのお見合い結婚や、介護、職業差別、子どもや家族の問題などシビアなテーマが含まれる作品ですが、夢物語ではない温かさがあるお話です。
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